東御市6次産業化発見 VOL.2
人との付き合いを大切にして生まれたジャム
今回ご紹介するのは「奥本農園」です。
標高約700mの東御市八重原にある「芸術むら公園」にほど近い場所に、奥本農園はあります。八ヶ岳連峰に見守られながら、自家栽培している作物等でジャムを製造しています。
農園を営むのは、奥本勝男(おくもと かつお)さんと裕子(ゆうこ)さんご夫妻。もともと野菜作りが趣味である勝男さん。東京都で会社員をしながら、自宅のある千葉県市川市で小さな家庭菜園をしていましたが、もう少し広い場所が欲しいとずっと考えていたそうです。
そんなとき、群馬県倉渕村(現在は高崎市)で「週末農園」と称して10坪の畑を貸し出していることを知り、すぐに契約しました。
勝男さんが定年退職を迎えたのをきっかけに、より広い畑を求めて各地を訪ねましたが、最終的に静岡県と長野県で迷っていました。
東御市の森を歩いていると、天空にいるような錯覚を覚えた
最終的に長野県に決めたきっかけは、思い出と土地勘があったこと。
勝男さんと裕子さんの出会いが、大学でのワンダーフォーゲル部でのサークル活動で、高峰高原に大学の山小屋があったことから、学生時代は頻繁に浅間山を訪れていました。
そんなこともあり、最終的に思い出と土地勘のある、長野県佐久市、小諸市、東御市に絞り込んだのだそうです。
ある日、土地探しのために東御市八重原の森を歩いていると、突然景色の良い開けた場所に辿り着きました。遠くに思い出の浅間山が見えるその眺望は、天空にいるような錯覚すら覚え、「こんな所は他にない。」と感じたそうです。そして2006年、東御市で畑を購入することを決めたのです。
しばらくの間は、日帰りで市川市から東御市の畑まで通っていました。しかし、220坪の畑の作業を終えて家路に向かうのは大変だったため、近隣の宿に宿泊するようになりましたが、二人で仮眠できる程度の小屋を建てようと思い、地元工務店に相談しました。
小屋も母屋も建築費はそんなに変わらないのではないか…とのアドバイスで、畑を購入した年と同じ2006年に自宅を新築し、市川市と東御市にそれぞれ一週間ずつ滞在する生活が始まりました。今では生活環境の変化により、ほぼ東御市で暮らしています。
野菜作りは地球との闘い
現在は、農薬や化学肥料を使用せず、様々な野菜やルバーブ(※1)、食用ほおずき(※2)などを作るとともに、自家製のジャムをつくって販売しています。
(※1)ルバーブ…シベリア原産のタデ科植物。30~40cmの葉柄に大きな葉がついた野菜で、葉柄の部分を食べる。生で食べると強い酸味と若干の渋みがあるので、日本ではジャムやスイーツで使われている。カリウムやビタミンCが豊富。
(※2)食用ほおずき…中南米原産のナス科植物。英語名を「グラウンド・チェリー」といい、ビタミンA、Cや鉄分などを多く含む。観賞用と違い、トロピカルフルーツのような味わいが特徴。
写真上は8月下旬に旬を迎える食用ほおずきで、無農薬にこだわるのが奥本農園。それ故に毎年タバコガ(※3)の幼虫の被害にあいます。
被害を少しでも軽減させるために、ミント(写真下の画上の緑の葉)とマリーゴールド(写真下の画下の黄色の花)を植えています。ミントはタバコガが嫌う香りを発し、マリーゴールドは一般的な虫を寄せ付けない効果があるのです。
(※3)タバコガ…ガ(蛾)の一種。野菜の葉や新芽、茎や果実に潜り込んで食害する。食用ほおずきの他、ピーマンやタバコなどのナス科の植物を好む。
栽培初年度は食用ほおずきを剪定することを知らず、畑はジャングルのようになってしまいましたが、小諸市在住のプロの方にご指導いただき問題を解決。しかし、次の年はタバコガの被害にあい、さらに次の年はハクビシン(※4)に収穫間際の熟した実をすべて食べられてしまいます。勝男さんは、「野菜作りは地球との闘いだ」と話します。
(※4)ハクビシン…額から鼻にかけて、白い線がある特徴から名がついたジャコウネコ科の動物。夜行性で雑食。特に果実を好み、年々農作物被害が増加している。
【上写真左から「あんずジャム」「ルバーブジャム」「ブルーベリージャム」。】
物を売るのではなく恩を売る
ジャム作りは裕子さんが担当。元々は、普通の家庭と同じように、自分たちで食べるために作っており、たまにご近所の方や友人などに分けていました。
転機は東京都で毎週土・日に開催されている「青山ファーマーズマーケット」に出店して高い評価を得たことです。
その後、様々なマルシェから出店依頼が舞い込みます。お客様の意見も聞きたかったこともあり、可能な範囲で出店しました。
『物を売るのではなく恩を売り、人とのお付き合いを大切にすること』を第一に考えている奥本農園には、根強いファンがどんどん増えていきました。
また、長野県は果物が豊富ということもあり、要望に応えるかたちで季節にあった旬のジャムを作り、ラインナップを増やしていきました。
今では『自分たちの育てたものを楽しんでもらうために心の通ったジャムを作る』、をモットーにしており、自家栽培ではない果物をジャムにする場合は、生産者の畑に行き、作業や収穫を手伝って、安心安全を確認しています。
そして加工は、余分なものは一切入れず、砂糖の量は極力抑え、なおかつ、素材の味を生かすために、味に癖がないてんさい糖を使用しています。
今後は若い世代を応援していきたい
最近では、若い生産者さんも自分の手でジャムを加工したいと、加工場の貸し出しの問い合わせが増えています。
「今後は若い方を応援し、お手伝いするのが私たちの役割なのかな。」と漠然と考えているそうです。
「住んでいる場所の周辺以外にも畑を持っていますが、今後は体力に合わせて規模を縮小しようと思っています。しかし辞めることは考えていません。私たちにとって、畑仕事は身体を動かし、頭を使い、いろんな予定が入り時間を持て余さないという幸せな時間です。今の私たちに大きな不安はありません。このまちに来て良かったですし、これからも人生をより豊かにするために楽しみながら歩んでいきたいと思っています。畑でクワを持って死ねたら本望ですね。」と笑いながら語り、夫婦で見つめ合い、うなずき合った奥本さんご夫妻でした。
【基本情報】
事業者名:奥本農園
住所:東御市八重原949‐2
代表:奥本勝男
メール:okumoto.farm@gmail.com
フェイスブック:https://www.facebook.com/farm.okumoto
事業内容:野菜、ルバーブ、食用ほおずき等の栽培、ジャムの製造
6次産業化の形態:農産加工
【ジャム取扱店】
まる屋(東御市)/ ターブルヒュッテ(東御市)/ 石窯パンハル(上田市)/ 布引観音温泉(東御市)/ 片山肉店(御代田町)/ HIJIYA33(軽井沢町)