幕は閉じ、そして物語は繋がっていくー刀剣展を終えてー
「東御の刀鍛冶-繋ぐもの-源清麿、山浦真雄、山浦兼虎、そして宮入法廣へ」が終幕しました。
展覧会に足を運んでくださった皆さま、ご協力いただいた関係者の皆さま、そして本展を監修いただいた宮入法廣刀匠に改めて感謝申し上げます。文化・スポーツ振興課の学芸員Xです。
この展覧会の企画は、私が文化行政職員として感じた一つの疑問から始まりました。宮入刀匠や源清麿、山浦真雄ら名だたる刀工が東御市に強く関わりを持つ中で、なぜ今まで誰も触れようとしなかったのか。
自身の専門である近代洋画の展覧会(「上田クロニクル」−上田・小県洋画史100年の系譜−)の準備を進めながら、宮入刀匠のご自宅へ足を運ぶようになったのは2021年のこと。
宮入一門から異なる流儀に行ったルーツや水戸徳川家の家宝である名刀「燭台切光忠」の復元等、数々の名仕事のお話をいただきました。
刀匠の話は段々と熱を帯びてくると、専門用語がたくさん出てくるので、最終的にはよくわからなかったりするのですが・・・。刀剣素人の私に熱心に語ってくれる宮入刀匠の姿勢から、正直刀剣よりも「刀匠自身」への興味が沸々と湧いていったことを思い出します。
自分のキュレーションで宮入刀匠を紹介したい。
いつしかそのようなことを思うようになりました。それと同時に、市内の小学校では山浦の生家に社会科見学等で訪れることがなくなったことを聞き、地域から「源清麿」や「山浦真雄」のことが忘れ去られかけていることや宮入刀匠の話が地域からではなく「外から聞いて伝わってくること」に違和感を感じていました。
「地域の文化」は地域が語り継がなければならない。
東御市文化芸術推進計画の策定をしながら地域文化の継承についても考えるようになったのは2022年。
まずは、近いところで振興を始めてみようと、市役所内で有志を募り「東御市役所女子刀剣部」を発足させました。
当時、福祉課、議会事務局、市民課など様々な部署から4名の職員に参加いただきました。平日の業務終了後に宮入刀匠宅で刀剣に関する講義を受け、休日は刀匠の紹介で各地で開催される鑑賞会にお邪魔させていただきました。
お茶をしながら刀剣について学ぶ日々。ほんわかしたひとときはなんか心地よかったのを覚えています。
この活動で核を作りながら、地域に活動を展開していけたらと考えていた矢先、天の声が私に届きます。
「市発足20周年記念事業、刀剣展でいってみるか」
地域洋画史100年の系譜を辿る研究展「上田クロニクル」ー上田・小県洋画史100年の系譜ー)が2024年1月に控えていたこの時。研究調査真っ只中で、“専門外の刀剣は時間をかけて勉強、消化しながらゆっくり進めていこう”と思っていたのですが・・・。
この機を逃すまいと、まずは刀剣の知識を持つ人材の確保から動き出しました。
刀剣振興を担当する地域おこし協力隊の公募を始めたのは2022年末…ですが、全く応募がありません。
その一方で、刀匠とは2024年秋の刀剣展の内容の検討を始めることとなります。「源清麿と山浦真雄、山浦兼虎、宮入刀匠」を取り上げ、地域の若い世代にも訴求できる企画を取り入れ、骨格を固めていきます。
全国の博物館や学芸員の皆様に地域おこし協力隊募集の協力を呼びかけ、公募開始からもうすぐ1年が経とうとした2023年秋にようやく1人の応募があり、採用することとなりました。繋いでくださった坂城町鉄の展示館様にはこの場を借りて改めて感謝申し上げます。
2024年初頭の冬の担当展覧会を終え、今春2024年度の組織は新体制へ。いよいよ展覧会の準備が動き出すわけです。が、私は美術館の学芸員を卒業し、文化振興施策をマネジメントする立場になり、展覧会を下から支える役割に回ります。
東御市として大々的に初めて刀剣を取り上げることに。担当するのは初めて展覧会を企画する学芸員と地域おこし協力隊の二人。私自身、二人に学芸業務を指導しながら展覧会を構成するというのは初めての仕事で、とにかく初めてづくしの2024春のスタートでした。当然初めてのチャレンジに擦った揉んだは色々とありましたが・・・。
結果、皆さんいかがでしたでしょうか。
宮入刀匠に監修いただいた館内は独立ケースの配置を見ていただければわかるとおり、美術館らしいリズム感のある展示構成で、来館者にワクワク感を与えてくれたと思います。
宮入刀匠の伝手を辿りながら、担当学芸員が本当に頑張って粘って、出品刀の借用手続きを行い、他にない構成で作品を東御に集めることができました。
そこにしっかりと自分に知識を付けながら、テキストを執筆し、宮入刀匠監修のもと、展覧会に肉付けをしてくれたのが皆さんご存知の地域おこし協力隊目黒さん。彼女の仕事ぶりはぜひ「東御の刀鍛冶 図録」をご覧いただければと思います。
その一方で市役所内部等では、移住定住・シティプロモーション係や信州とうみ観光協会と連携し、広報の強化、観光事業への展開により刀剣振興事業が向かうベクトルを明確にできたという実感と施策の横断的な取り組みの重要性について改めて認識しました。
また、刀剣の振興について地域に話題が及ぶと、刀剣ファンの市民の方々から、“ぜひ自分も協力させてほしい”“自分のところにも刀があるから見てほしい”といったお話をいただくようになります。
市民の皆さんが自主的に協力の申し出をしてくれる、これほど文化振興にとって理想の形はないでしょう。
さらには、展覧会との地域協働企画ということで多くの事業者さまにもコラボレーション商品の提供をいただき、文化振興に留まらない地域振興、まちづくりにまで展開できたのではないかと思います。
まさにこれは、2023年に策定した東御市文化芸術推進計画にて地域の文化伝承のために目指す地域の姿なのです。
本展には北は北海道、南は沖縄から本当に多くの方々にご来館いただきました。来館者はなんと10,000人を達成するという絵画館がオープンして以来の大記録を打ち立てました。
しかし、それよりも、来館いただいた皆さんが刀剣展はもちろんですが、東御市をめいっぱい楽しんでいる様子がSNSを通じて伝わってくるのが(それも毎日!)、嬉しかったです。
東御市、良いとこですよね!
皆さん本当にありがとうございました。またぜひ東御市にお越しください。